本記事では、戦略コンサル出身の著者が、ググって上位表示されるメディアより一段高い解像度で「売上向上ケースの対策方法」について解説します。
【著者の略歴】
京都大学から新卒でBain&Companyに入社。金融、電子機器、ヘルスケア領域の企業への、収益性改善、組織改革、買収提案などのプロジェクトを経験し、同社を卒業後、人材領域で創業。学生時代はITコンサルでの長期インターンも経験。
まずは減点回避
ペーパーテストの場合、正解(加点)or 不正解(0点)の2択ですが、現実世界ではそうでない事象の方が多いです。
正解(加点)、無難(0点)、不正解(減点)の3択です。
(さらに言えば、これらに確率の概念を足して期待値とボラティリティを考えるべき)
例えば、意中の女性と付き合うことが目的の場合、容姿の清潔感と発言で不快感を与えないことは減点回避であり、加点ではない等。
減点回避(清潔感、非・不快感)が完璧でも、何かしらの加点(顔、スタイル、ユーモア、集団内での地位の高さ、経済力など)がなければ、他にも無限に彼氏候補がいる中でわざわざ選ばれることはないでしょう。
ただ、優先順位として、減点項目が現状あるならば先にそちらを潰すべき(理由:インパクト実現可能性どちらも高いから)というのは、ケース面接においても同様です。
なので、求職者がやってしまいがちな減点行為をまず書きます。
(偉そうに言っている私も最初は減点行為をやりまくってました)
あるある1:フレームワークで情報を整理しただけで仮説が無い
「まず、市場を分析するとXX、次に競合を分析するとXX、さらに、製品、価格、チャネル、広告のどれを変えるべきかについて分析すると、、」
要は、3Cと4Pの各要素に対して思いついたことを述べているのですが、これはNGです。
なぜなら、一番欲しいのは分析ではなく仮説であり、関連する事象を網羅的にリストアップするだけならChatGPTを使うからです。
仮説とは、一定の論拠に支えられた仮の答えのことであり、「結論、XXすべきです。なぜなら、」「XXが優先的に解くべき論点だと思います。なぜなら、」といった構造を伴います。
これだけ初めて聞いてもよく分からないと思うので、次章の模範解答例を見てから戻ってきていただけますと幸いです。
ここでは、「フレームワークを思考停止で使っていたら通過できないんだぁ」という学びだけ得ていただければ充分です。
あるある2:構造に意味がなくとりあえず分解している
「市場を分解すると、人口×利用率×単価で、人口は動かせないので、利用率か単価を動かします」
「(前提情報で満席になることがない店舗だと分かっているにもかかわらず)売上を分解すると、キャパシティ×稼働率×回転数×客単価で、稼働率か客単価を動かします」
などが該当します。
どちらも
「顧客数を増やすか顧客単価を上げるかです」
をわざわざ薄めて長い文章で説明しています。(Kearney流に言えば「意味含有率が低い」)
かつ、前者は利用「率」で分母が全人口なので、アメリカ人と日本人を比較したいならいいですが、おそらくそうではないので、「率」という言葉から想起されるものがマイナス作用を持っていますし、後者は供給目線の分解なので、供給側に課題がある前提でないならこれも不必要に分かりにくい構造を採用していることになります。
構造化は、大きい塊を質的に異なる2つ以上の塊に分けて解像度を上げたり、仮説を正しく伝えるために有用な枠組みを互いの脳内で共有したりするために行います。
上記あるあるは、因数分解するのがセオリー、という知識だけ持っている初心者がやってしまいがちな失敗です。
あるある3:自分の意見を守ろうとする
「えっと、でも、」
「そうですが、、とは言え、」
ケース面接=論破されたら終わり、だと勘違いしてしまっている人は意外と多いです。
面接官に評価されて合否が決まる以上、自然に考えると、面接官VS受験者の構図を前提としてしまいがちですが、そうではなく、面接官=ディスカッションパートナー、メンター、と捉えた方が格段に通過率が上がります。
そう捉える能力のことを、コーチャビリティと言います。(Coach + ability=Coachability)
客観的な正しさを第一に追求していれば、自分の意見が合っていようが間違っていようが正しさ=正義でどうでもいいと感じますが、プライドが高い人は、自分の意見が否定されることを我慢できません。
コンサルワークはチームで行う、かつロジックとファクト、アカウンタビリティの向上が基本的に成果物であるが故に、チームの成果物最大化よりも自分のプライドを優先する人はなるべく入れたくないという事情があります。
加点獲得、模範解答例
加点獲得のためのポイントを3つに集約するとしたら以下です。
・施策がありきたりでも論点をおさえられている(勿論施策も良いに越したことはない)
・顧客心理が深く洞察できている
・伝え方が構造化されていて端的で簡潔である
上記3点が売上向上ケースにおける三種の神器です。
上記を満たした模範解答例を提示します。
せっかくなので、一度自分で考えてアウトプットを作ってから模範解答例を見に行ってみてください。
問題:GODIVAの売上向上施策を提言せよ
解答例:
・「結論、ECに注力し、贈答用ではなく自分用でプチ贅沢目的で食べることを促すことを提案します」
・「まず、チョコレート市場の全体観について述べると、市場は高級品と大衆品にブレイクダウンされ、GODIVAは高級品に分類されると思います。次に、購買目的で分けると、自分用、贈答用(バレンタイン)、贈答用(非バレンタイン)の3つ。こう分けることで、消費行動の違いが表れてくるかと思います」
・「各市場の成長性については、どのセグメントも安定推移~微増なのではないかと予測します」
・「次に、目的別に顧客のKBFを考えると、自分用の場合、味/価格/高級感、贈答用の場合、バレンタインか否かにかかわらず、ブランドイメージ/包装のおしゃれさ/入手しやすさ、になると思います」
・「そういった市場の中で、GODIVAは、高級品セグメントで、贈答用、特にバレンタインで圧倒的なシェアを取っているのが現状だと思います」
・「仮に、味と高級感が原価率に比例するものなのだとすれば、このポジショニングは非常に強く、こだわりが弱いので深く考えずとりあえずGODIVAを買う顧客層に売って、収益性が高くなっているのではないかと思います」
・「その前提で、アップサイドを見出すとすれば、自分用で、マニア寄りの愛好家市場では分が悪いので、GODIVAを認知し贈答用に購入しているが自分用にはそもそも高級チョコを買っていないライト層を狙うのが良いと思います」
・「具体的な戦術としては、贈答用で来店した際に、公式LINE登録でその場で一口食べる目的のチョコを1つプレゼントし、金曜日の夜など購買確率が高いタイミングでクリエイティブを打つ、を初期仮説とします」
・「また、比較先を他社チョコレートではなくサウナ等のストレス解消サービスとしてセールスすれば、””お高めのチョコレート””ではなく””1000円程度で安く気軽にできるストレス解消手段””として売りやすい気がしています」
・「以上です」
解説:
・施策がありきたりでも論点をおさえられている(勿論施策も良いに越したことはない)
→まず高級品/大衆品、自分用/贈答用(バレンタイン)/贈答用(非バレンタイン)と全体像をおさえつつ質的に異なるセグメントに切り分けた上で、GODIVAでアップサイドが大きい自分用消費におけるHow to win、を論点としており仮説の筋が良い
・顧客心理が深く洞察できている
→KBFをMECE感がある形で整理し、高級チョコ消費者をさらにマニアとライトに分けてライト層に刺さりそうな方向性を特定している
・伝え方が構造化されていて端的で簡潔である
→結論の後にいきなり論拠を述べると(この場合は)むしろ分かりにくくなるので、全体像の共有から入って自然に論拠までストーリーを流している
上記の通り、加点基準を満たしており、文句無しの合格回答です。
ケース面接は創造性勝負のテストではなく、構造的思考力を測るテストである、というイメージが湧いたでしょうか?
著者が就活生の時は、「普通に考えてNewが無いと提言としての価値が無い。創造性はマストでしょ」と勘違いしていました。
実際に内定している人達のケース回答を見ると、創造性は必須ではないことがすぐにわかります。
(クライアントがコンサルに求めるものがアートではなくサイエンス、つまりファクト&ロジックなので当然なのですが)
ただ、結局高い倍率を通過するためには、ライバルと差別化された光るものがあった方がいいのは間違いないので、創造的で面白いアイデアを捻出する姿勢を捨てるのはもったいないです。
あくまで、優先順位の問題です。
対策はディスカッション重視で
前章で模範解答例を紹介しました。
ただ、注意が必要なのは、1stアウトプットが完璧でも、その後のディスカッションが微妙なら普通に落ちることです。
なので、ディスカッションにも力点を置いて対策すべきです。
そして、1stアウトプットはある種のパターン暗記ゲームと捉えてたくさん自習すればなんとかなるものの、ディスカッションを強くするには、対話型で脳に負荷をかけ、鋭いFBをもらう必要があります。
まとめ
今回、最も出題頻度が高い「売上向上タイプのケース面接」について解説しました。
概念論としては理解できたと思いますが、自分でできるようになるためには、実践+FBが必要です。
下記より転職面談をご予約いただけますと、元Bainのエージェントと模擬ケース面接を行えます。
ご興味がございましたらぜひ。